最終更新日:2026年9月14日
従業員のメンタルヘルス不調や私生活上のトラブルは、本人だけの問題にとどまらず、欠勤・休職・離職や職場内のトラブルにつながることがあります。こうした問題の早期解決を支援する仕組みが、従業員支援プログラム(EAP)です。
EAPには、カウンセリングを中心とするものだけでなく、弁護士による法律相談を利用できるサービスもあります。
本記事では、EAPの基本から企業側の導入メリット、法律相談型EAPを利用する際の注意点まで解説します。
1. 従業員支援プログラム(EAP)の基本
1.1 EAP(Employee Assistance Program)とは?
EAPとは「Employee Assistance Program」の略で、従業員が抱える心身の不調や生活上の問題について、専門家への相談などを通じて解決を支援する仕組みです。
従来はメンタルヘルス対策として知られてきましたが、現在では、仕事上のストレスや人間関係だけでなく、家庭問題、介護、金銭問題、法律問題など、幅広い悩みを対象とするサービスがあります。
1.2 メンタルヘルス対策が重視される背景と現状
職場におけるメンタルヘルス対策の重要性は高まっています。
厚生労働省は、メンタルヘルス対策として「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」という4つのケアを示しています。
外部EAPは、この「事業場外資源によるケア」の一つに位置づけられます。
1.3 企業が負う「安全配慮義務」との関係
使用者は、労働契約法5条 により、従業員が生命・身体等の安全を確保しながら働けるよう必要な配慮をする義務を負っています。この安全配慮義務には、心身の健康への配慮も含まれます。
EAPを導入し、従業員が早期に相談できる体制を整えることは、メンタルヘルス対策の1つになります。
ただし、EAPを導入しているだけで安全配慮義務を果たしたことになるわけではありません。長時間労働の是正、職場環境の改善、休職・復職対応など、具体的な状況に応じた対応が必要です。

2. EAPの主なサービス内容と種類
2.1 具体的な支援内容
EAPの内容は事業者によって異なりますが、代表的なものには次のようなものがあります。
- ① 心理職等によるカウンセリング
- ② ストレスチェックやメンタルヘルス研修
- ③ 医療機関への受診勧奨
- ④ 休職者の復職支援
- ⑤ 管理職や人事労務担当者への助言
- ⑥ 家族、介護、金銭問題など私生活上の相談
従業員本人だけでなく、管理職や人事労務担当者向けの相談窓口を用意しているサービスもあります。
2.2 法律相談型EAP(法的トラブル支援)
法律相談型EAPとは、従業員が弁護士に相談できる仕組みです。
従業員が抱える悩みには、離婚・相続・借金・交通事故・消費者被害など、法律問題が背景にあることも少なくありません。こうした問題が大きなストレスとなり、仕事への集中力低下や欠勤につながることもあります。
法律相談型EAPでは、早い段階で弁護士に相談することで、問題点や取るべき手続きを整理し、トラブルの深刻化を防ぐことが期待できます。
2.3 内部EAPと外部EAPの違い
内部EAPは、産業医、保健師、心理職など社内のスタッフが中心となって相談対応を行う仕組みです。社内事情を理解したうえで対応しやすい反面、「会社に相談内容を知られたくない」と従業員が利用をためらうこともあります。
外部EAPは、外部の専門機関や弁護士等に相談窓口を設ける仕組みです。社内から独立した窓口であるため相談しやすく、中小企業でも専門人材を常時雇用せずに利用できる点がメリットです。
実務上は、従業員が相談しやすいよう、外部EAPを置きつつ、社内の産業保健・人事部門と連携する併用型が使いやすい場合があります。
3. 企業がEAPを導入するメリット
3.1 メンタルヘルス不調の早期発見・早期対応
従業員が不調を感じた段階で専門家に相談できれば、問題が深刻化する前に対応できる可能性が高まります。
特に、人間関係や家庭の問題など、社内では話しにくい悩みについて、外部EAPの相談窓口を用意することには大きな意味があります。
3.2 休職・離職リスクの低減と復職支援の円滑化
悩みを抱え続けると、欠勤や休職、離職に至ることがあります。EAPを活用して早期支援につなげることで、休職の長期化や離職を防ぐ効果が期待できます。
また、復職時にも、産業医や主治医、人事担当者等と適切に連携することで、無理のない復職計画を立てやすくなります。
3.3 安全配慮義務違反(損害賠償リスク)の回避
EAPの導入は、従業員の心身の不調を把握し、適切な支援につなげるための体制整備の一つです。そのため、EAPを適切に運用し、そこから得られた情報などをもとに業務軽減や休職等の必要な措置を講じることで、企業が安全配慮義務を適正に果たしていると評価されるための一つの要素となりえます。
しかし、実際に不調の兆候や長時間労働を把握していたにもかかわらず、業務軽減や受診勧奨など必要な対応をしなければ、安全配慮義務違反が問題となる可能性があります。
EAPは「導入したら安心」という制度ではなく、社内の労務管理と組み合わせて活用することが重要です。
3.4 法律相談型EAPの導入メリット
法律問題は、周囲に相談しにくい上に、放置すると紛争が拡大しやすいという特徴があります。従業員が費用面を気にせず早期に弁護士へ相談できる窓口を設けることは、福利厚生の充実にもつながります。
企業側にとっても、私生活上の法的トラブルによるストレスや業務への影響を軽減し、従業員が仕事に集中しやすい環境を整える効果が期待できます。
4. 法律相談型EAPを導入する際の注意点
4.1 相談内容の非開示とプライバシー保護の徹底
EAPを機能させるためには、「相談しても会社に内容を知られない」という信頼が重要です。
そのため、従業員本人の同意なく個別の相談内容を会社へ報告しないこととし、会社への報告は利用件数や相談分野など、個人を特定できない範囲にとどめる運用が基本です。
契約時には、相談情報の取り扱い、会社への報告範囲、例外的に情報共有が必要となる場合のルールを明確にしておきましょう。
4.2 会社を相手方とする相談は基本的に受けられない
法律相談型EAPでは、相談できる内容の範囲にも注意が必要です。
弁護士には、利益相反(一方の利益になると他方の不利益になる状態)に関する制約があります。会社とEAP契約を締結して継続的にサービスを提供している場合、従業員から会社に対する未払い残業代請求などの相談を受けることは、利益相反上の問題が生じます。
そのため、会社を相手方とする相談や、その相談に基づく交渉・訴訟の受任はEAPの対象外とするなど、あらかじめ運用を明確にしておくことが重要です。

5. EAP導入・活用のステップ
5.1 自社の課題抽出と導入目的の明確化
まずは社内の問題を把握し、その上で「メンタルヘルス相談を充実させたい」「従業員向けの法律相談窓口を設けたい」など、EAPの導入目的を明確にします。
目的が曖昧なままでは、サービスを導入しても十分に活用されない可能性があります。
5.2 委託先・サービスの選定ポイント
目的に応じて委託先を選定します。具体的には、以下を確認しましょう。
- ① 対応する専門家・相談できる内容
- ② 電話・オンライン・対面などの相談方法、利用可能時間
- ③ 相談回数・費用
- ④ 個人情報の管理方法と会社への報告範囲
- ⑤ 緊急時の対応体制
また、ストレスチェックも委託する場合には、法律上必要な資格を持つ実施者が配置されているか、ストレスチェックや面接指導を適切に実施できる体制が整っているかについても確認する必要があります。
法律相談型EAPの場合には、これらに加えて、相談できる法律分野、会社を相手方とする相談の取扱い、相談後の交渉・訴訟等まで依頼できるかといった点も確認しておきましょう。
5.3 社内周知と利用ハードルを下げる工夫
制度を用意しても、従業員が存在を知らなければ利用されません。
相談方法や費用、相談内容の秘密が守られることを繰り返し周知し、困りごとが小さい段階から利用できる制度であることを伝えることが重要です。
6. よくあるご質問(FAQ)
6.1 顧問弁護士がいる場合でも、法律相談型EAPを別で導入できますか?
可能です。ただし、会社を相手方とする事件の相談や依頼は原則としてEAPの対象外とするなど、あらかじめ運用を明確にしておくことが重要です。
6.2 従業員が「会社に金銭を請求したい」とEAPで相談した場合の対応は?
会社を相手方とする相談は利益相反の問題が生じるため、EAP担当弁護士への相談はできないという運用にしましょう。
6.3 従業員がEAPの利用を拒否した場合の対応は?
EAPの利用を無理に強制することは適切ではありません。会社として必要な面談や安全配慮上の対応は別途行いながら、EAPは利用可能な選択肢として案内するのがよいでしょう。
6.4 第三者から「休職が必要」と言われた場合の対応は?
EAPの医療・心理職などから休職の必要性を指摘されても、それだけで直ちに休職を命じるのではなく、まず本人の状況を確認します。
そのうえで、必要に応じて主治医や産業医等の医学的意見を確認し、就業規則の休職規定や業務上の配慮の可否を踏まえて判断することが重要です。
7. まとめ:従業員のメンタルヘルス・法的トラブル対策は弁護士へご相談
EAPは、従業員が抱える問題を早期に把握し、専門家につなげるための有効な仕組みです。
一方で、秘密保持や利益相反、会社の安全配慮義務との関係など、導入時に整理すべき点もあります。
EAPの導入や労務管理体制の見直しを検討している企業は、企業法務・労働問題に詳しい弁護士へご相談ください。





