最終更新日:2026年8月24日
企業間の物品売買では、納品後に「商品に欠陥があった」「数量が足りない」「注文したものと違う」と判明することがあります。
買主としては返品や交換、損害賠償を求めたいところですが、商人間の売買では商法526条に注意が必要です。
同条は、買主に目的物の検査・通知を求め、買主が所定の対応をしなかった場合、履行の追完、代金減額、損害賠償、解除といった権利行使を制限しています。特に、直ちに発見できない種類・品質の契約不適合についても「6か月」の期間制限があります。
もっとも、6か月を経過すれば常に請求できなくなるわけではありません。売主が契約不適合を知っていた場合や、契約書に特約がある場合などは結論が変わります。
本記事では、商法526条の検査義務・通知義務について、民法との違い、6か月ルール、売主が悪意・重過失である場合の裁判例、買主・売主双方の実務対応を解説します。
1. 商法526条の概要
1.1 商法526条の趣旨
商法526条1項 は、商人間の売買で、買主が目的物を受領したときは「遅滞なく」検査しなければならないと定めています。
さらに同条2項は、検査によって種類・品質・数量に関する契約不適合を発見した場合、「直ちに」売主へ通知しなければ、契約不適合を理由とする一定の権利を行使できないとしています。
このようなルールが設けられているのは、企業間の商取引では、取引関係を迅速に確定する必要性が高いためです。商品を納品してからかなりの時間が経った後に、買主から「不具合があった」と責任を追及されてしまうと、売主側は、納品時の商品の状態などを確認することが難しく、対応が非常に困難になります。
そのため、商法526条では、買主に対して早期の検査と通知を求めることで、法律関係を早期に確定させようとしているのです。
1.2 民法(契約不適合責任)との違いと関係性
商法526条は、買主の民法上の権利を保存するための前提条件を定める特則です(最高裁判所平成4年10月20日判決)。買主の民法上の権利行使に制限を設けているというイメージです。
民法は、引き渡された目的物が種類・品質・数量について契約内容に適合しない場合、買主は売主に対して履行の追完を請求できるとしています(民法562条1項 )。
履行の追完の方法としては、商品の修理、代替物との交換、不足分の引渡しなどがあります。
そして、種類・品質の契約不適合について、原則として買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しなければ、契約不適合を理由とする権利を行使できないと定めています(民法566条 )。ただし、引渡時に売主が不適合を知っていた場合、または重大な過失によって知らなかった場合には、この1年の通知制限は適用されません。
これに対して、商法526条は、商人間の売買についてより迅速な対応を買主に求めています。
買主は、目的物を受領したら「遅滞なく」検査し、不適合を発見したら「直ちに」通知しなければなりません。また、直ちに発見できない種類・品質の不適合についても、受領から6か月以内に発見する必要があります。
1.3 「商人間」の売買にのみ適用される
商法526条が適用されるのは、「商人間の売買」です。一方の当事者が商人ではない場合には、商法526条は適用されません。
「商人」とは、以下のいずれかに当てはまる人(会社)です。
- ① 自己の名で商行為を仕事として行う人
- ② 店を使って物を売る仕事をする人や、鉱業を営む人
- ③ 株式会社や合同会社などの会社組織
そのため、会社同士の間の売買契約であれば、原則として商法526条は適用されます。

2. 商法526条で買主が負う「検査・通知義務」
2.1 受領後「遅滞なく」検査、「直ちに」通知をする義務
商法526条が適用される場面では、買主は目的物を受領したら「遅滞なく」検査し、契約不適合を発見した場合には「直ちに」売主へ通知しなければなりません。
商法526条には、「受領から〇日以内」などと具体的な日数が定められているわけではありません。検査を「遅滞なく」行ったといえるかどうかは、実際にかかった日数だけでなく、目的物の性質、数量、引渡場所、取引慣行、当事者間で合意した検収手続などによって判断が異なります。
そのため買主としては、目的物が検査可能な状態になったらできるだけ速やかに検査し、不具合を発見したら、原因調査がすべて終了するのを待たずに、まず売主へ通知することが重要です。
また、売主に通知する内容は、契約不適合の種類や大体の範囲を明らかにするものであれば足りるとされています。
2.2 【直ちに発見できない契約不適合】「6か月以内」に発見し、「直ちに」通知をする義務
商品の契約不適合の中には、受領直後の検査では発見できないものもあります。たとえば、商品の内部構造に欠陥がある場合などです。
このような直ちに発見できない契約不適合については、受領後6か月以内に不適合を発見した場合に、「直ちに」売主へ通知する必要があります(商法526条2項後段)。たとえば、納品から3か月後に不具合を発見したにもかかわらず、6か月の期限直前まで売主への連絡をしなかった場合、「直ちに」通知したとはいえない可能性があります。
また、受領後6か月を過ぎてから発見された種類・品質の契約不適合については、買主は原則として追完請求権といった権利を行使できません。
なお、この6か月の期間制限の対象は、条文上は「種類又は品質」の不適合のみとされ、「数量」の不適合は含まれていません。もっとも、通常の検査でも発見できない数量不足に6か月の期間制限が及ぶかについては、見解が分かれています。
2.3 義務を怠った場合の効果
買主が契約不適合を発見したにもかかわらず、売主に通知を行わなかった場合、その契約不適合を理由として、次のような権利を行使できなくなります。
- ① 履行の追完請求(修理、交換、不足分の納品など)
- ② 代金減額請求
- ③ 損害賠償請求
- ④ 契約解除
また、受領後に検査を行わず、通常の検査をしていれば発見できたはずの契約不適合について適切なタイミングで通知できなかった場合にも、上記の権利行使が制限される可能性があります。
重大な影響があるため、必ず受領後に検査を行い、契約不適合を見つけ次第すぐに通知を行う必要があります。

3. 商法526条どおりのルールが適用されないケース
3.1 売主が目的物の不適合を知っていた場合
契約不適合について、売主が「悪意」であった場合には、同条2項は適用されません(商法526条3項)。
ここでいう「悪意」とは、「悪い意図がある」という意味ではありません。売主が契約不適合を知っていたことを意味します。
したがって、たとえば売主が商品の欠陥を知りながら買主へ納品した場合には、買主が契約不適合を直ちに通知していないことだけを理由に、売主が責任を免れることはできません。
また、契約不適合を知らなかったことについて売主に重過失(著しい不注意)がある場合も、同じように、商法526条2項は適用されないとしている裁判例もあります(東京高等裁判所令和4年12月8日判決)。
そのため、場合によっては、売主に悪意はなく、重過失があるケースでも、商法526条2項が適用されず、売主が責任を負う可能性がある点には注意が必要です。
3.2 契約書で特約を定めている場合
商法526条は任意規定です。そのため、契約書で「商法526条は適用しない」といった内容を定めている場合は、その取引について商法526条は適用されません。
また、契約書で、細かい検査の期限を設定したり、売主が責任を負う期間を商法より長くしたりしている場合もあります。
たとえば、以下のような内容です。
- 商品に瑕疵又は数量不足があった場合は、買主は、商品の受領後〇営業日以内に、具体的な瑕疵又は数量不足の内容を示して、売主に通知する。
- 商品に検査では発見できない契約不適合がある場合、買主が商品の納入日から1年以内に売主に対してその旨の通知を発したときは、売主は、買主の選択に従い、商品の修補、代替品もしくは不足分の納入、又は代金の減額をしなければならない。
したがって、実際にトラブルが生じた場合は、個別契約書、基本取引契約書、発注書、利用約款などの規定も確認する必要があります。
4. 買主・売主それぞれの実務対応
4.1 【買主側】契約不適合を発見したらすぐに行うべき証拠保存・通知
買主が納品物の不具合を発見した場合、まずは、証拠を保存しながら、速やかに売主へ通知することが重要です。
具体的には、次のような資料を探し、確認・保存しましょう。
- 納品書、発注書、売買契約書、仕様書
- 商品の受領日がわかるもの
- 商品名、型番、製造番号、ロット番号のわかるもの
- 不具合が発生した商品の数量がわかるもの
- 不具合を発見した日時がわかるもの
- 不具合の状態を撮影した写真・動画
- 検査結果や社内での報告記録
- 売主とのメールやチャットなどのやり取り
可能であれば、不具合のある商品をすぐに廃棄・加工することは避け、売主が現物を確認できる状態を確保しておくことも重要です。
また、売主への通知の際は、「どの商品について、どのような不適合が、どの程度発生しているのか」が分かるようにします。
4.2 【買主側】6か月経過後に不具合が判明した場合に確認すべきポイント
目的物の受領から6か月以上経過してから不具合が発見されたとしても、売主の責任を追及できる可能性はゼロではありません。
売主が契約不適合について悪意(場合によっては重過失)であったり、契約書で特約を定めていたりする場合には、受領から6か月以上が経過していても売主の責任を追及できる可能性があります。
そのため、まずは次の点を確認する必要があります。
- 売主と買主の双方が商人であり、契約が売買契約に当たるか
- 問題となっているのは種類・品質・数量のどの不適合か
- 不適合をいつ発見したか
- 受領時の通常の検査によって発見できる不適合だったか
- 契約書に保証期間や検査・通知に関する特約がないか
- 売主が不適合を知っていた事情がないか
- 売主に、不適合を知らなかったことについて重過失がありそうな事情がないか
ただし、商法526条による制限が適用されないとしても、売主に責任を追及できるとは限りません。民法566条 の通知期間や消滅時効など、別の期間制限が問題になる可能性もあるのです。
そのため、時間が経過している案件ほど早めに契約書や事実関係を整理する必要があります。
4.3 【売主側】納品後に返品・損害賠償請求を受けた場合の確認事項と対応
売主側が、納品から相当期間が経過した後に、買主から返品、交換、損害賠償や契約解除を求められた場合には、まず事実関係を整理しましょう。
特に確認したいのは、次の事項です。
- 納品日・買主の受領日
- 買主が行った検査の内容・時期
- 買主が不適合を発見した時期
- 売主への通知が行われた時期・方法・内容
- 通常の検査で発見可能な不適合であったか
- 契約書上の検収期間、通知期限、保証期間
- 売主側が納品時に不適合を認識していた事情がないか
あわせて、製造記録、出荷前の検品記録、品質管理記録、同一ロットに関する不具合情報、買主とのメールなどを保全することも重要です。
事実関係を十分に確認しないまま責任を全面的に認めることも、反対に「期間が経過しているから」という理由だけで一律に請求を拒絶することも適切ではありません。
まず、商法526条の適用要件と契約条項を確認し、買主の請求が法的に認められるのかを検討する必要があります。
4.4 売買契約書では「検査期間・通知方法・責任期間」を具体的に定める
納品トラブルを予防するためには、「遅滞なく」「直ちに」という商法526条の文言だけに委ねるのではなく、売買契約書や基本取引契約書で検査・通知のルールを具体化することが有効です。
たとえば、以下の内容を定めることがあります。
- 通常の検査を「納品後○営業日以内」とする
- 通知方法を「電子メールまたは書面」とする
- 通常の検査では発見できない不具合の責任を負う期間を「納品後○か月以内」とする
- 通常の検査では発見できない不具合について、通知期間を「発見した日を起算日として〇営業日以内」とする
- 通知時に商品名、ロット番号、不具合内容、発生数量などを記載する
買主側にとっては、通常の検査では発見困難な不具合について十分な責任期間を確保することが重要です。
一方、売主側としては、検収期限、通知窓口、通知に必要な情報、責任を負う期間などを具体化し、責任が長期間不確定になることを防ぐことが重要です。
なお、免責・責任制限条項を設ける場合には、民法などによる制約にも注意が必要です。たとえば、「売主は契約不適合責任を負わない」という特約を設定しても、売主が知りながら伝えなかった事実については、売主は責任を免れません(民法572条 )。
4.5 検収・検品の社内ルールを整備し、証拠を保存する
商法526条への対応は、契約書を整備するだけでは十分ではありません。
買主側では、納品後の検収・検品について、以下のような社内ルールを定めておくことが重要です。
- 誰が検査するのか
- いつまでに検査するのか
- 何を確認するのか
- 検査結果の記録方法
- 不具合が見つかった場合、誰に報告するのか
- 売主への通知を誰が行うのか
検査を実施していても、その記録がなければ、後日「いつ検査したのか」「いつ不具合を発見したのか」が争いになる可能性があります。
売主側も、出荷前の検査結果や品質管理記録を保存し、納品時の商品の状態を確認できるようにしておきましょう。
商法526条をめぐる紛争では、単に6か月が経過したかどうかだけでなく、「いつ、何を検査し、いつ不適合を発見し、いつ、どのような内容を通知したのか」という証拠が重要になります。
5. よくあるご質問(FAQ)
5.1 「遅滞なく」「直ちに」とは具体的に何日以内を指しますか?
検査についてどの程度の期間が許されるかは、目的物の性質、数量、引渡場所、取引慣行、当事者間で合意した検収手続などの事情によって判断されます。
そのため、「3日なら大丈夫」「1週間以内なら問題ない」などと一律に考えることはできません。
実務上は、商品を受領したら可能な限り速やかに検査を開始し、不適合を発見した時点で売主へ第一報を入れる運用にしておくことが安全です。また、契約書で検査・通知の期限を定めている場合には、その定めに従う必要があります。
5.2 数量不足や品違い(注文と異なる商品)の場合も商法526条が適用されますか?
数量不足や品違い(注文と異なる商品)の場合も商法526条は適用されます。
商法526条2項は、目的物が「種類、品質又は数量」に関して契約内容に適合しない場合を対象としています。
そのため、たとえば100個注文したのに90個しか納品されていなかったという数量不足や、A製品を注文したのにB製品が納品されたという品違いも、納品された商品を契約に基づくものとして受け取った場合は原則として商法526条の対象となり得ます。
ただし、一見して全く異なる商品が届いた場合など、契約の履行として受け取ったと言えないケースでは同条が適用されず、通常の債務不履行として責任を追及できる場合があります。
5.3 商品を検査せずに転売し、後から不具合が判明した場合はどうなりますか?
商品を転売したこと自体によって、元の売主と買主との間で商法526条が適用されなくなるわけではありません。
問題になるのは、元の売買契約について、買主が商法526条の検査・通知の要件を満たしているかです。
たとえば、通常の検査で発見できる不具合であったにもかかわらず、買主が検査をしないまま商品を転売した場合には、買主が商法526条上の検査義務を果たしていないことが問題になります。その結果、元の売主に対する追完請求などが認められなくなる可能性があります。
一方、通常の検査を行っても直ちに発見できない種類・品質の契約不適合で、転売先からの指摘によって初めて判明した場合には、受領から6か月以内に発見したかどうかや、発見後直ちに元の売主へ通知したかどうかなどを検討することになります。
なお、元の売主と買主との売買契約と、買主と転売先との売買契約は別の法律関係です。
転売先から買主が返品や損害賠償を求められた場合には、その転売契約について、別途契約不適合責任や商法526条の適用を検討する必要があります。
5.4 契約書に何も書いていない場合、自動的に商法526条が適用されますか?
売主と買主の双方が商人であり、対象となる契約が売買契約であるなど、商法526条の適用要件を満たしている場合には、契約書に「商法526条を適用する」と明記されていなくても、同条は適用されます。
もっとも、法人間取引であれば常に商法526条が適用されるという意味ではありません。
一方当事者が商人に当たらない場合や、契約の法的性質が売買ではない場合などには、適用されない可能性があります。
また、商法526条が適用される場合でも、当事者間で検査期間や責任期間について特約を定めていれば、その内容も併せて確認する必要があります。
5.5 電話で不具合を伝えただけでも「通知」したことになりますか?
売主への通知について、商法526条では具体的な方法は定められていません。そのため、当事者間で通知方法について特約を定めていなければ、電話での連絡であっても、必要な内容が売主に伝われば「通知」にあたる可能性があります。
しかし、電話だけで連絡した場合は、後日、「誰に伝えたのか」「どのような不具合を伝えたのか」について争いになるおそれがあります。
また、売主に通知する内容は、契約不適合の種類や大体の範囲を明らかにしておく必要がありますので、口頭での伝達は不十分になるおそれもあります。
そのため、電話で第一報を入れた場合でも、その後速やかに、対象商品、不具合の内容、数量・ロット番号、発見日などを郵便や電子メールなどで送付し、記録を残しておくことをおすすめします。
6. まとめ:納品トラブルや契約書の作成・審査は弁護士に早めに相談
商人間の売買では、買主は目的物を受領した後「遅滞なく」検査し、種類・品質・数量に関する契約不適合を発見した場合には、「直ちに」売主へ通知する必要があります。また、直ちに発見できない種類・品質の契約不適合については、受領から6か月以内に発見することが重要です。
もっとも、実際の紛争では、単に「6か月が経過したか」という点だけで結論が決まるわけではありません。
「通常の検査で発見できた不具合なのか」「買主の通知内容は十分だったのか」「契約書で商法526条とは異なるルールが定められていないか」「売主が不適合を知っていたのか」など、多くの事情を確認する必要があります。
また、紛争が起きてから対応するだけではなく、日頃から売買契約書や基本取引契約書で検査期間、通知方法、保証期間・責任期間などを明確にし、社内の検収・検品フローを整備しておくことが重要です。
納品物の欠陥・数量不足をめぐるトラブルや、売買契約書・基本取引契約書の作成・見直しでお困りの場合には、企業法務に詳しい弁護士へ早めにご相談ください。






