最終更新日:2026年10月9日
予約客が連絡なく来店しない「無断キャンセル(ノーショー)」や、予約直前のドタキャンは、飲食店にとって大きな問題です。
では、飲食店は無断キャンセルをした客に対して、キャンセル料や損害賠償を請求できるのでしょうか。また、相手の住所がわからない場合には、どのように請求すればよいのでしょうか。
この記事では、飲食店の無断キャンセルへの対抗策について、請求できる損害の範囲、具体的な回収手順、弁護士会照会、キャンセルポリシーなどの事前対策まで解説します。
1. 飲食店の無断キャンセル(ノーショー)における客の法的責任
1.1 飲食店の予約は契約になる?無断キャンセルの法的責任
飲食店の予約は、書面を取り交わしていなくても、店と予約客が予約日時、人数、コース内容などについて合意すれば契約が成立します。電話やインターネットなど、予約の方法は問いません。
予約が成立すると、店側は予約された日時に料理や席を提供するための準備をします。客側も予約内容に従って来店し、代金を支払うことが予定されます。予約客が正当な理由なく無断で来店しなかった場合には、契約上の義務を履行しなかったとして、民法415条 に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
「予約を忘れていた」といった事情だけで当然に責任を免れるわけではありません。一方で、災害や大規模な交通障害などがある場合は、個別の検討が必要です。
1.2 キャンセルポリシーとキャンセル料に関する注意点
1.2.1 キャンセルポリシーは明らかにしておく
飲食店は、「当日キャンセルはコース料金の100%」「前日は50%」などのキャンセルポリシーを設けることがあります。
キャンセルポリシーは、これを設けるだけでなく、予約時にお客様がその内容を確認できるようにし、契約内容となるようにしておくことが重要です。キャンセルポリシーが契約内容となっていなければ、原則として、そこに記載したキャンセル料をそのまま請求する契約上の根拠にはできません。
インターネット予約であれば予約画面に表示し、電話予約であれば重要な内容を口頭で伝えた上で記録を残すなどの運用が考えられます。
1.2.2 「平均的な損害」を超える違約金は無効
また、一般の消費者との契約では、消費者契約法9条1項1号 にも注意が必要です。同条は、キャンセルに伴う損害賠償額の予定(あらかじめ定めておく損害賠償金)や違約金のうち、「同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害」を超える部分を無効としています。
「平均的な損害」は、その客のキャンセルによって実際に生じた損害額そのものではなく、同じ事業者における同種の契約について、キャンセルの時期などの区分ごとに類型的に算定される損害を意味します。
たとえば、当日の無断キャンセルで、すでに食材の仕入れや調理が済み、別のお客様で席を埋めることも難しい場合には、数日前のキャンセルより平均的な損害が大きくなることが考えられます。
そのため、「無断キャンセルは100%」と定めていても、常に全額を請求できるとは限りません。また、消費者からキャンセル料の算定根拠について説明を求められた場合には、その概要を説明するよう努める義務があります(消費者契約法9条2項 )。

2. 無断キャンセルで請求できる損害の範囲
2.1 コース予約の場合の損害額
コース予約では、予約人数と料金があらかじめ決まっているため、席のみ予約と比べて損害を把握しやすい傾向があります。
たとえば、1人8,000円のコースを10人分予約し、当日に全員が無断キャンセルした場合、使えなくなった食材費や、予約が履行されていれば得られた利益などが損害となり得ます。
ただし、「売上予定額8万円=そのまま損害額8万円」とは限りません。キャンセルによって支出せずに済んだ費用があれば、その分は損害から差し引いて考える必要があります。また、仕入れた食材を翌日の営業に使用できた、空いた席に別の客を案内できたといった事情も損害額に影響することがあります。
2.2 席のみ予約の場合の損害額と逸失利益
席のみ予約でも、損害賠償を請求できる可能性はあります。ただし、注文する料理や金額が予約時に確定していないため、コース予約より損害額の算定が難しくなります。
たとえば、金曜日の午後7時に6人席を確保していたため他の予約を断ったにもかかわらず、予約客が無断で来店しなかった場合、その席を使って通常得られたはずの利益が問題となります。
このような逸失利益(本来得られたはずの利益)を請求する場合には、単に「6人なら5万円程度使ったはずだ」と主張するだけでは十分とはいえません。同じ曜日・時間帯の平均客単価、平均的な注文額、過去の稼働率、予約を断った履歴など、客観的な資料から合理的に算定することが重要です。
なお、売上額と利益額は同じではありません。料理を提供しなかったことで支出を免れた原材料費などがあれば、その点も考慮して損害額を検討する必要があります。
2.3 損害額を算定・立証するために確認しておきたい資料
キャンセル料や損害賠償を実際に請求する場合には、「予約があったこと」と「どの程度の損害が生じたか」を示す資料が重要です。
たとえば、次のような資料を保存しておきましょう。
- ① 予約サイトの予約履歴、予約完了メール
- ② 電話予約の受付記録、予約台帳
- ③ 予約時に表示・説明したキャンセルポリシー
- ④ 予約客とのSMS、メール、SNS等のやり取り
- ⑤ コース料金やメニュー表
- ⑥ 予約のために仕入れた食材の納品書や領収書
- ⑦ 同じ曜日、時間帯の客単価や売上実績
- ⑧ 満席のため他の予約を断ったことが分かる記録
後からでは予約履歴が消えたり、担当者の記憶が曖昧になったりすることがあります。無断キャンセルが発生した時点で必要な画面を保存し、社内で記録を残す仕組みを作っておくことが大切です。

3. 無断キャンセルの客に対する具体的な請求手順
3.1 予約記録やキャンセルポリシーなどの証拠を確保
まずは、客観的な資料を確保します。同時に、予約日時や人数の入力ミス、店側の受付ミスがないか、相手からキャンセル連絡が届いていなかったかを確認しましょう。
あわせて、相手の氏名、電話番号、メールアドレス、住所など、予約時に取得した情報も整理します。
3.2 電話・SMS・メールなどで請求
次に、電話、SMS、メールなどで客に連絡し、来店しなかった事情を確認したうえで、キャンセル料等を請求します。
連絡の際には、感情的な表現を避け、「○月○日○時、○名の予約について無断キャンセルとなっている」「予約時のキャンセルポリシーに基づき○円を請求する」など、根拠と金額を明確に伝えます。
キャンセルポリシーを定めていなかった場合には、実際に生じた損害とその計算方法を説明することが考えられます。振込先と支払期限も明示しておきましょう。
3.3 内容証明郵便でキャンセル料・損害賠償を請求
電話やメールで請求しても支払いがない場合には、内容証明郵便を利用する方法があります。
内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰に差し出したかを日本郵便が証明する制度です。相手が受け取った事実まで証明したい場合には、配達証明を付ける方法があります。
通知書には、予約の日時・人数・内容、無断キャンセルの事実、請求の根拠、請求金額、その計算方法、支払期限、振込先などを記載します。必要に応じて、期限までに支払いがない場合には法的手続きを検討する旨も申し添えます。
内容証明郵便だけで支払義務が確定するわけではありませんが、その後の交渉や裁判に備えて、いつ、どのような内容の請求をしたのかを客観的な記録として残すことができます。また、相手に対して支払いを求める強い意志を示すこともできます。
3.4 支払督促や訴訟などの法的手続きを利用
請求しても支払いがない場合には、支払督促や訴訟などの法的手続きを検討します。
支払督促は、裁判所書記官から相手に金銭の支払いを督促してもらう手続きで、相手が異議を申し立てると訴訟に移行します。
60万円以下の金銭請求では少額訴訟を利用することもできますが、原則1回の審理で行われるため、事前に主張や証拠を十分に準備する必要があります。また、通常の民事訴訟に移行する場合もあります。
飲食店のキャンセル料は少額となることも多いため、法的手続きに進むかは、請求額と時間・費用とのバランスを踏まえて判断することが重要です。
4. 相手の住所などがわからない場合
無断キャンセルでは、予約時に電話番号しか取得しておらず、請求書や内容証明郵便を送りたくても相手の住所がわからないケースがあります。
弁護士に依頼した場合には、弁護士法23条の2 に基づく「弁護士会照会」などを利用し、携帯電話会社その他の関係先に照会して、契約者情報等の回答を求めることを検討できる場合があります。
弁護士会照会は、弁護士が依頼を受けた具体的な事件を処理するために必要な情報について、所属する弁護士会を通じて照会する制度です。そのため、単に「この電話番号の持ち主が誰なのか知りたい」という目的だけで利用することはできません。無断キャンセルによるキャンセル料や損害賠償の請求を弁護士が受任し、その請求のために相手方の住所等を確認する必要がある場合に、利用を検討することになります。
また、電話番号がわかれば必ず氏名や住所を特定できるわけではありません。照会の必要性・相当性について弁護士会の審査があり、照会先から必要な回答が得られない場合もあります。
相手の情報が不足している場合には、請求額との費用対効果も含めて弁護士に相談するとよいでしょう。
5. 無断キャンセルを未然に防ぐための事前対策
5.1 キャンセルポリシーを策定し予約時に明示する
キャンセルポリシーには、キャンセルの連絡方法、無料でキャンセルできる期限、前日・当日・無断キャンセルの場合のキャンセル料、人数変更の場合の取扱いなどを記載します。
「キャンセルの場合は料金をいただくことがあります」といった曖昧な表現ではなく、「当日キャンセルはコース料金の○%」など、予約客が負担を具体的に予測できる内容にしましょう。
キャンセル料の金額は、消費者契約法9条の「平均的な損害」を踏まえて設定する必要があります。
5.2 事前決済・予約金などを導入する
高額なコース、大人数の宴会、貸切予約など、無断キャンセルによる損害が大きくなりやすい予約では、事前決済や予約金の導入も有効です。
予約時にクレジットカードで決済してもらったり、一定額の予約金を預かったりすれば、無断キャンセル後に一から相手を追いかけて回収する負担を軽減できます。
ただし、事前に受け取った金額をキャンセル時にどのように取り扱うかについては、キャンセルポリシーと整合させておく必要があります。キャンセル料として充当する条件や返金の有無・時期を明確にしておきましょう。
5.3 予約確認とキャンセルがしやすい仕組みを整える
予約日の勘違いやキャンセル連絡の忘れが原因のこともあります。
予約日の数日前や前日に、メールやSMSで日時・人数をリマインドするだけでも、予約忘れの防止につながります。大人数や高額な予約については、店舗から電話で再確認することも考えられます。
同時に、客がキャンセルしやすい仕組みも重要です。営業時間中に電話しなければキャンセルできない仕組みよりも、予約サイトやメッセージから簡単に連絡できる方が、無断キャンセルを防ぎやすくなります。
「キャンセルそのものをなくす」ことだけを目指すのではなく、来店できないとわかった時点で早く連絡してもらい、店側が食材や席を他に転用できる時間を確保することが重要です。
6. よくあるご質問
6.1 キャンセルポリシーを定めていなくても請求できますか?
はい。キャンセルポリシーがなくても、予約契約が成立しており、客の無断キャンセルによって損害が生じた場合には、債務不履行に基づく損害賠償を請求できる可能性があります。
ただし、あらかじめキャンセル料を定めていないため、店側で実際に生じた損害とその金額を説明・立証する必要性が高くなります。今後のトラブル防止のためにも、キャンセルポリシーを整備しておくことをおすすめします。
6.2 キャンセル料として予約金額全額(100%)を請求できますか?
無断キャンセルであっても、常に予約金額の100%を請求できるわけではありません。
キャンセルポリシーで100%と定めていても、消費者契約法9条の「平均的な損害」を超える部分は無効となるため、個別に検討が必要です。
6.3 少額のキャンセル料でも回収手続きをする意味はありますか?
少額であっても、電話やメールで請求することには一定の意味があります。無断キャンセルを放置しないという店舗の姿勢を示すことにもつながります。
一方、法的手続きまで進めるかは費用対効果を考える必要があります。数千円程度の請求では、調査や裁判に要する時間・費用が回収額を上回ることもあります。
6.4 弁護士に回収を依頼すると費用倒れになりませんか?
キャンセル料が少額の場合、弁護士に回収を依頼すると費用倒れになることがあります。
一方、キャンセルポリシーの整備や、高額・悪質な無断キャンセルへの対応方針について弁護士に相談することは考えられます。
7. まとめ:被害を減らすには事前対策と適切な請求が重要
飲食店の無断キャンセルに対しては、予約契約の内容や損害の発生状況に応じて、キャンセル料や損害賠償を請求できる可能性があります。ただし、請求できる金額は事案によって異なり、キャンセルポリシーを定めていても無制限に請求できるわけではありません。
被害を減らすには、キャンセルポリシーの整備、事前決済、予約確認などの予防策と、無断キャンセルが発生した際の証拠保存・迅速な請求の両方が重要です。
キャンセル料の設定や、悪質な無断キャンセル客への請求、相手方の特定などでお困りの場合には、早めに弁護士へご相談ください。







