業種
お困りの問題
担当弁護士

相談前

A社の経理担当者のミスにより、振込先を間違えて送金してしまいました。10万円に満たない金額ではありますが、気づいてすぐに誤振込みをした先の金融機関に連絡したものの、「口座名義人の同意が必要だが、10年近く入出金の履歴がない口座であり、口座名義人の承諾が取れない。」「口座名義人が死亡していることが判明した。相続人全員の同意が必要である。一部の相続人は海外に居住しているようであり、全員の同意を取得するのは絶望的。」などと回答してくるに留まり、返還を受けるのは絶望的だと考えるようになりました。だめでもともとという思いで、顧問弁護士に相談しました。

相談後

弁護士が金融機関に連絡し、口座名義人が死亡しているときはその相続人全員の承諾がないと返還できないというのが大原則なのはたしかだが、10年近く入出金のない、口座名義人が死亡している金融機関口座に原因なく振込みがされるはずはないこと、したがってA社の振込みは誤振込みであることが明らかであること、裁判例でもこうした誤振込みの返還の手続が簡易に行われるのが望ましいことを指摘するものがあることなどを主張し、返還を要請しました。

その結果、誤振込みしてしまった金額全てが返還されることになりました。

担当弁護士からのコメント

  • 振込みを実行した後、あとでその振込みをなかったことにしたいと思っても、振込先口座に着金した後は、普通のやり方ではどうにもならないのが通常です。実際に誤振込みだったのか資金繰りが苦しくなってそう言っているだけなのか分かりませんし、返還が簡単に行われるようですと、振込みという金融決済の仕組みに対する社会の信頼が損なわれる結果につながってしまいます。
  • 原則は、口座名義人が承諾することです。口座名義人が承諾すれば、手数料の問題はありますが、問題なく返還されます。 口座名義人が承諾しなければ、口座名義人に対して訴訟を起こして、判決を取得してその口座を差し押さえなければなりません。その口座から口座名義人が現金を引き出してしまい、残高がなくなれば、差し押さえてももう回収できません。そのため、場合によっては、仮差押えも視野に入れる必要があります(なお、誤振込みされたことを知って口座名義人がその口座から誤振込みされたお金を引き出すのは、窃盗罪又は詐欺罪に当たります。)。
  • しかし、この件では、口座名義人が死亡しているとのことですから、相続人を探し、その全てに対して訴訟を起こさなければなりません。そのうちの一部は外国に居住していると聞いていましたから、手間や費用を考えると、実際に相続人全員に対して訴訟を提起するのは、現実的ではありませんでした。
  • これらのことから、金融機関は返還に応じたのだと思います。あくまでイレギュラーな対応です。弁護士の金融機関に告げた理屈は、この件では奏功しましたが、オールマイティな理屈ではありません。
  • 金融決済システムがネットを通じてパソコンや携帯電話の端末から利用できるようになり、簡便さが増しましたが、それだけに、その操作には細心の注意を払う必要があります。誤振込みのトラブルなど、ないのが一番です。

令和4年7月4日以下追記

山口県の出来事の報道が契機でしょうか。誤振込みの対応に関するお問合せをいただくことが極端に増加しました。

ここにお書きした事例は、顧問契約を締結していただいてから長年のお付き合いのある企業様からの日常業務に関する御相談の中で、何かできることがあればしてほしいとのご要望を受け、だめでもともとであることをご理解いただいたうえで、金融機関との協議を行ったものです。

組戻しがうまくいかないとき、口座名義人またはその相続人全員に対する判決を取得し、その後に口座等の差押えの申立てをしなければ実現しないのが原則です。

本件がたまたま返還の実現が叶ったこともあり、この企業様には、顧問契約を締結していて良かったと改めてお感じいただけたものと思います。

当事務所のお取扱い分野は下記に記載させていただいており、少額の誤振込み事案において金融機関との協議により返還の実現を目指すということに取り組んでいるわけではございません。

当事務所のお取扱い分野