最終更新日:2026年8月5日

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 小林義和

Q. 最近、知り合いの経営者仲間から、従業員本人の代わりに退職代行サービスから突然退職の連絡が来たという話を聞きました。退職の意向を本人の口から直接聞いておらず、引継ぎも終わっていないことも多いと思いますが、会社として要求を拒否することはできるのでしょうか?

A. 近年、このようなケースが増加し、多くの企業が対応に苦慮しています。退職代行からの通知であっても、従業員本人の意思に基づく場合、法的には有効な退職の意思表示として扱われるのが原則です。感情的になってすぐに拒否したり無視したりすることは、かえって事態を悪化させる原因となります。そのため、まずは落ち着いて対応をする必要があります。


退職の意思表示の法的効力

従業員の退職には、一方的に労働契約を終了させる意思表示である「辞職」と、会社の承諾を求める「合意解約の申し入れ」があります。法律上、退職の意思表示に特別な方式は定められておらず、口頭でも成立するため、退職代行を通じた意思表示も法的に有効となる可能性が高いです。ただし、退職が本人の意思に基づくことが前提になりますので、本人の意思確認ができる資料の提示を求めることも重要です。

正社員など「期間の定めのない雇用契約」の場合、民法第627条1項に基づき、申し入れから原則として2週間が経過すると雇用契約が終了します。就業規則で「退職は1か月前までに申し出ること」と定めていても、民法の規定が優先されるのが一般的です。

一方、契約社員など「有期雇用契約」の場合は、やむを得ない事由等がない限り、原則として契約期間中の一方的な退職は制限されます(民法第628条)。もっとも、やむを得ない事由がある場合や1年間を超える期間の有期雇用(ただし例外有)において契約日から1年間が経過した場合(労働基準法附則137条)などは例外的に認められます。

そのため、通知を受け取った時点で、対象従業員の雇用形態を確認しておくことが重要です。

代行業者の「属性」による対応の違い

退職代行を行うのが「弁護士」か「民間業者」かによって、会社がとるべき対応は大きく異なります。

弁護士の場合は、従業員からの依頼に基づき、代理人として会社と交渉する権限を法律上持っています。会社側は弁護士を正当な代理人として扱い、誠実に対応することが必要です。

民間業者の場合は、退職代行サービス自体が新しいため、確立した見解があるとは言い難いですが、弁護士資格を持たない民間業者が行えるとしても、基本的に「退職の意思を伝える」という使者としての役割に限られます。民間業者が、退職日の調整や金銭の支払いに関する交渉など、法的な判断や交渉を伴う行為を行えば、弁護士法第72条で禁止されている「非弁行為」にあたる可能性があります。そのため、民間業者からこれらの交渉を持ちかけられても、会社は交渉に応じる法的な義務はありません。

有給休暇や給与及び引継ぎについての実務対応

有給休暇や給与については、退職代行を利用する従業員は、通知の翌日から出社せず、有給休暇をすべて消化して退職日を迎えるケースが多いです。法律上、従業員には有給休暇を取得する権利があり、会社は原則としてこれを拒否できません。また、未払いの給与や残業代がある場合は速やかに支払う義務があり、支払いを怠ると労働基準監督署への申告などに発展するリスクがあります。

引継ぎについては、退職代行を利用するケースでは、対面での引継ぎ実施が困難なことが多いです。しかし、従業員は退職日まで「労務提供義務」を負っているため(ただし、有給休暇取得日は除く)、退職代行者を通じて引継ぎ資料の作成やメールでの質問への回答など協力を求めることが現実的な対応といえます。なお、退職代行者が民間業者の場合、退職代行者とやり取りする情報の中に企業秘密や個人情報などの機微な情報が含まれないか十分注意する必要があります。

会社が避けた方がよい対応

対応を誤ると、会社は思わぬ法的リスクを負うことになります。

代理人や労働組合がついているにもかかわらず、感情的になって本人に直接電話をかけたり訪問したりする行為は、トラブルをさらに悪化させる原因となります。

また、従業員には退職の自由があり、会社は退職を拒否できません。多数回にわたって執拗に退職を撤回させようとする行為は違法と判断される可能性があります。

その他、会社が合理的な理由なく有給休暇の取得を認めず出勤を強要したり、過大な引継ぎ業務を課したりすると、逆に会社が不法行為として損害賠償責任を負う可能性があります。引継ぎは要請できますが、あくまで合理的な範囲にとどめる必要があります。

まとめ

退職代行の利用は、従業員が会社とのコミュニケーションに何らかの課題を感じている場合になされることが多いといえます。定期的な面談を実施するなど、悩みを相談しやすい環境を作ることで退職の可能性を早期に把握できます。

また、退職代行から通知があった際は、まずは冷静に事実確認から始めてください。相手が弁護士を立ててきた場合や、未払い残業代などの請求を伴う複雑なケース等、少しでも不安がある場合は、速やかに企業法務に詳しい弁護士へご相談されることをおすすめします。

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 小林義和

副代表弁護士・税理士。税務と法律の双方の観点から会社経営全体の解決を目指します。企業勤務の経験もあることから、直面している問題・課題に対して、一番よい解決方法を一緒に考えます。千葉県弁護士会所属(登録番号44648)。

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