労働法の基礎②-採用を巡る諸問題

初回の記事は、「労働法とは?」というテーマでお話させていただきました。

抽象的なお話でいまいちピンとしない記事だったかと思いますが、今回は、問題になることも多い「採用」についてお話させていただきます。


1.そもそも「採用」とは?

明確な法律上の定義があるわけではありませんが、会社が労働者を雇い入れることを言います。労働者が求人広告等に申し込み(申込の意思表示)を行い、会社が当該労働者を採用(承諾の意思表示)すれば、雇用契約は成立となります。

どのような労働者を採用するかについては、基本的には会社の自由となります。

2.採用内定?試用期間?

(1)採用内定

実際に就労するのはまだ先ですが、会社で働いてもらうことは決まっている…こんな状態を、「採用内定」と言います。

採用内定は、働く時期こそ到来しておりませんが、働いてもらうこと自体は決まっているため、基本的には内定を出した時点で「雇用契約」が成立するものと考えられています。

ただし、内定という性質上、会社側に一定の解約の余地が残されているため、「始期付(=労働を開始するまでタイムラグがある)解約権留保付(=一定の場合に解約できる)の労働契約」が成立しているものと考えられています。

(2)内定取消

(1)で解約権があると記載しましたが、自由に解約できるわけではありません。

裁判例を見るに、相当程度の縛りがあり、内定後の事情の変動(体調の悪化、留年、経営の著しい悪化等)や、内定時に会社が知りえなかった事情の発覚(経歴詐称等)がない限り、内定を取り消すことはできないと解されています。

例えば、内定者がグルーミー(陰気)な印象であるとして会社が内定を取り消したところ、当該内定取り消しは無効とされた、という判例もございます。

(3)試用期間

内定とは違う概念で、「試用期間」というものもあります。

これは、採用後、労働者に実際に働いてもらう中で、その労働者の適格性を判断するために設定する期間です。当該試用期間が経過した後に、その労働者を本採用するかの判断を行うこととなります。

内定とは異なり、実際に労働を行っているため、「始期付」という要素が落ち、「解約権留保付の労働契約」が成立しているものと考えられています。

この点、誤解が多い部分ですが、試用期間後の本採用拒否は、「解雇」に他なりません。一度労働契約が成立している以上、その解消には、高いハードルがある訳です。

したがって、会社が自由に本採用拒否できるわけではなく、その有効性は厳しく判断される傾向にあります。

※試用期間という性質上、通常の解雇よりはやや緩やかに解されておりますが、慎重に判断する必要があります。

3.採用面接時に聞いていけないことは?

職業安定法、男女雇用機会均等法、個人情報保護法といった諸法令により、一定の範囲で、面接時に聞いてはいけないこと(聞くべきでないこと)が規定されています。

例えば、①人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項、②思想及び信条、③労働組合への加入状況といった事項については、原則として確認してはならないとされております。また、結婚の予定の有無、子供が生まれた場合の継続就労の希望等につき、女性に対してのみ質問することは禁止されています。病歴・犯罪歴等は、本人の同意を得た上で、かつ利用目的を示す必要があります。

何をどこまで聞くか、という点は非常に悩ましい問題ですが、本来聞くべきではない事項を面接時に聞いた場合、その労働者とトラブルになる可能性があるだけではなく、当該事実がSNS等により拡散され、企業の評判低下を招く危険性もあります(レピュテーションリスク)。

なお、採用を拒否した場合に、その理由を聞かれることが(稀に)ありますが、回答する必要はありませんし、トラブル防止の観点から、回答すべきではないと考えます。

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文責:弁護士 村岡つばさ

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。