マッチングアプリを利用したセミナー勧誘で業務停止に。特定商取引法違反について。

目次

  1. 事案の概要
  2. 特定商取引法 違反の内容
  3. 特商法に基づく処分
  4. 特定商取引法には注意が必要

1. 事案の概要

経済産業省中部経済産業局は、令和5年8月9日、訪問販売事業者である一般社団法人と株式会社の2社に対して、特定商取引法の規定に基づき、3か月間訪問販売に関する業務を停止するよう命じました。

株式会社の販売担当者らは、マッチングアプリを通じて知り合った消費者に対して「趣味も合うので今度お茶でもしませんか」「タロット会があるんです」と言って「タロット会」と称するイベントに誘ったということです。

その上で、約束の日にタロット占いを行った後で「どうすれば今後成功すると思う」「もっと深く知りたければ、また私と会って話しましょうか」などと告げて再訪の約束を取り付け、後日、社団法人の事業所の一室でセミナーへの勧誘をし、契約を締結したということです。

また、別の消費者に対しても同じような方法で事業所の一室に連れてきた上で、「高いので一回家に持ち帰りたいですよね」「ゆっくり考えたいので」と、契約を締結するつもりはない旨の意思を示していたにもかかわらず、約3時間にわたり休憩なしで勧誘を続け、契約を締結させたそうです。

2. 特定商取引法 違反の内容

経済産業省中部経済産業局は、上記2社(以下「両社」といいます。)が連携して、特定商取引法の各条項に違反したとしています。具体的にどの条項に違反・該当したのでしょうか。

(1) 特定商取引法第3条(訪問販売における氏名等の明示)

特商法3条は、「訪問販売」をしようとするときに、それに先立って販売業者・役務提供業者の名称や勧誘をする目的であること、役務の種類などを相手に伝えなければならないとしています。

ここでいう「訪問販売」とは、営業所や代理店等以外の場所で契約を行う販売方法です。そのため、消費者の住居を訪問する以外に、喫茶店での販売や展示販売も「訪問販売」に当たります。

また契約が締結されたのは営業所であっても、消費者を別の場所で呼び止めて営業所に同行さえて契約を締結させるキャッチセールスや、電話で販売目的を明かさずに消費者を呼びだして契約する場合は訪問販売に当たります。

両社は、マッチングアプリで知り合った人を事業所に連れてきて契約を締結するという形をとっていたため、訪問販売にあたります。

そして勧誘に先立って、相手方である消費者に対して会社の名称や、セミナー契約の締結について勧誘をする目的である旨及び勧誘に係る役務の種類を明らかにしていませんでした。

(2) 特定商取引法第6条4項(禁止行為)

特商法6条4項は、勧誘するためであることを告げずに、営業所等以外の場所で呼び止める等の形で誘引した人に対して、公衆の出入りする場所以外の場所で契約締結の勧誘をしてはいけないとしています。

両社は、関係ない一般人が出入りすることができない場所である事業所の一室で、連れてきた消費者を勧誘し、契約を締結したため、この条項に違反したといえます。

(3) 特定商取引法第7条1項5号(指示等)

特商法7条1項は、訪問販売に関するいくつかの行為について、役務提供業者がその行為を行った場合に、購入者の利益が害されるおそれがあるときはその役務提供業者に必要な措置をとるべきことを主務大臣が命じることができるとしています。

その規制される行為の一つが「迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘をする」ことです。

両社は、消費者が契約を締結しないという意思を繰り返し表示したにもかかわらず、その後も長時間に及ぶ執拗な勧誘を続けるなど、迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘をしており、「迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘をした」といえます。

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3. 特商法に基づく処分

役務提供業者が特商法3条や6条などに違反する行為をした場合において、取引の公正及び役務を提供される者の利益が著しく害されることが認められる場合は、主務大臣は2年以内の期間を指定して業務停止を命じることができます。

本件でも両社は3条及び6条に違反する行為を行っているため、これに基づいて業務停止が命じられました。

また、特商法特商法3条や6条などに違反する行為や、7条各号に当てはまる行為をした場合で、取引の公正及び役務を提供される者の利益が著しく害されることが認められる場合は、主務大臣は適切な措置をとるべきことを役務提供業者に指示することができます。

本件でも、両社は違反行為や該当行為の発生原因について、調査分析の上検証し、再発防止策を講ずるとともに、コンプライアンス体制を構築し、これを役員・販売担当者に周知徹底することを指示されました。

4. 特定商取引法には注意が必要

今回のケースの行為については、違法行為であることが分かりやすいかと思います。

しかし、特定商取引法は訪問販売以外にも、ECサイトでの販売を含む通信販売や特定継続的役務提供などについて様々な規制を課しています。

特に訪問販売や通信販売にあたる可能性がある取引を行う場合は、特定商取引法の規定に違反しないかどうか一度弁護士に相談したほうがよいでしょう。
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文責:弁護士 辻佐和子

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。