「むきてんかん」は漢字にすると「無期転換」です。企業や国立大学などで制度の適用が問題になる事例が報道されています。皆様ご存じでしょうか?
実は、2024年4月から会社にとって厳しい方向で制度が変わります。「知らない」という会社は有期雇用契約の運用を見直しましょう。
1. 「無期転換」とは?
労働契約法に定められているのが以下の無期転換制度です。
- 同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える有期契約労働者が、
- 使用者に対し、契約期間満了までの間に、無期労働契約の申し込みをすると、
- 使用者がその申し込みを承諾したものと扱われて、契約期間満了日の翌日からの無期労働契約が成立すると扱われる。
「有期労働契約者」とは、いわゆる「契約社員(契約期間の定めがある人)」のことです。「無期労働契約」とは、いわゆる「正社員」に近いのですが、契約期間の定めがない雇用契約のことです。
ただし「正社員になる」との表現はやや不正確です。
というのも、「正社員」は契約期間以外にも契約社員と異なる様々な雇用条件があります。無期転換で全ての雇用条件まで完全に一緒にはなりませんので「正社員になる」という表現はやや不正確です。
わかりにくいですが、要するに、契約社員が5年以上働くと正社員に似たような待遇になるかもしれないということです。
たとえば、無期転換した元契約社員を辞めさせるには正社員同様の厳しい解雇規制をクリアする必要があります。
2. 無期転換の認知度と制度改正
無期転換制度を知っている従業員は少ないかもしれません。無期転換ルールを知っている労働者の割合は次の通りです。
- 知っていることがある:35.5%
- 名称だけ聞いたことがある:16.9%
- 知らない:32%
- 無回答15.7%
2024年4月から労働条件明示のルールが変わります。たとえば、無期転換が発生するタイミングの契約更新時に、会社が労働者に対して、無期転換権が発生することや無期転換時の労働条件を明示する必要が生じます。
今まで制度の詳細を知らなかった労働者が法律上の権利があることを知ることになります。また、そもそも制度設計ができていないと、この義務が果たせないことにもなります。
3. 無期転換に関する主な注意点
制度設計の決定
無期転換は法律上の権利です。法律上の必要な条件を満たせば、自動的に権利が発生します。そのため、会社は次の対応が必要です。
- 無期転換が発生することを許容するのかしないのかの決定
- 無期転換を許容する場合は無期転換後の処遇などの制度設計
- 無期転換を許容しない場合は無期転換の権利が発生しない制度設計
たとえば、契約社員が無期転換した後の制度を定めていないと、無期転換後の社員に正社員用の就業規則が適用される可能性があります。
無期転換した従業員から「他に適用される就業規則がないことから、正社員の就業規則の適用がある(同じ待遇になる)」という主張をされると会社内での取り扱いが大混乱する可能性がありますので要注意です。
また、無期転換を許容しないとしても、単純に5年経過する前に雇止めしてしまえばよいという問題ではありません。
法律上、雇止めを一定の場合に無効とするルールが別にあり、それに抵触してしまえばそのような雇止めができないからです。
他に無期転換を避ける方法として、あらかじめ更新を行わない旨や更新回数に上限を設けた合意をする方法もあります。もっとも、これまでは上限の記載がなかったのに途中から上限回数を設けた場合など、その有効性が問題にあるケースがありますので、ただ合意すれば安心というものでもありません。
労働者に明示する事項
2024年4月以降は有期契約の労働者に以下の明示が必要です。
- 更新上限の有無と内容
- (発生する場合)無期転換権があること
- (無期転換権がある場合)無期転換後の労働条件
4. まとめ:無期転換制度
無期転換制度は、契約社員を多く雇用している会社に強い影響力を持っています。今後も制度改正により、より周知が図られ、政府主導で推進されていくはずです。
契約社員が多数いるにもかかわらず、無期転換制度を一度も検討したことがない場合、社内の制度の見直しをおすすめします。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。