新型コロナワクチン接種を巡る労務トラブルーワクチン接種の義務付け、解雇、ワクチンハラスメント等々

1. はじめに

先日、「コロナ禍の労務対応」に関するテーマでセミナーを行いました。

同セミナー内で、ワクチン接種を巡る労務トラブルのお話もさせていただいたのですが、多くの企業様が、この部分に興味を持たれていたのがとても印象的でした。

そこで今回は、新型コロナウイルスのワクチン接種に関する労務トラブルについて、お話をさせていただきます。

2. ワクチン接種を従業員に義務付けることはできるか?

結論から申し上げますと、ワクチン接種を義務付けること(=強制すること)は、現状の法律・制度の下ではできません。

新型コロナウイルスのワクチンについては、「予防接種法」という法律が適用されますが、この法律では、「接種を受けるよう努めなければならない」と定められており、接種を受けることは義務ではなく、努力義務とされています。

上記法律からも分かる通り、現在の日本国においては、ワクチン接種を推奨(努力義務)されてはいるものの、接種する義務まではなく、最終的には、本人が納得した上で、接種するかを決めることになっています。

そのため、企業においても、ワクチン接種を義務付ける(=強制する)ことはできません。なお、裏返しの話にはなりますが、ワクチンを接種しないことを強制することもできません。

3. ワクチン接種を拒否した従業員を解雇できるか?

つい先日も、アメリカの大手テレビ局であるCNNが、新型コロナウイルスのワクチンを未接種のまま出社したとして従業員3名を解雇したという報道がなされていました。

CNNに限らず、アメリカでは、医療機関・大学などを中心に、ワクチン接種を義務付ける動きが出始めているそうです。

フランスでは、医療従事者や高齢者施設などの職員にワクチン接種を義務化するとの方針が示され、ワクチン接種をしていない医療従事者は、勤務に従事できず、また、給与も支給されない可能性があるそうです。

他方、日本では、ワクチン接種を義務付けることができない以上、接種を拒否したことを理由に解雇することはできません。

現状の政府の方針を踏まえると、解雇に至らなくとも、何らかのペナルティーを科すことも困難と考えます。

なお、今後政府の方針が変わり、ワクチン接種が「法律上の義務」となれば、これを拒否したことを理由に解雇することも可能になるかもしれません。

4. ワクチン接種を推奨することはできるか?

ワクチン接種を推奨すること自体は可能ですが、「推奨」の程度を超え、「事実上の強制」と評価されるような場合には、ハラスメント等の労務トラブルに発展する可能性があります。

ワクチンを打たない人への差別や嫌がらせは、ここ最近、「ワクチン・ハラスメント」などと呼ばれ、社会問題になりつつあります。

日本弁護士連合会でも、「新型コロナウイルス・ワクチン予防接種に係る人権・差別問題ホットライン」という相談窓口を設けたところ、2日間で208件もの相談が寄せられたとのことでした。

とある企業において、社長が、「ワクチンを接種した人は懲戒解雇にする」(接種を拒否した場合には解雇、ではありません)旨の発言をしたという話がSNS上で拡散され、企業がHP上で声明を出さなければならなくなったというケースもありました。

真偽は不明で、会社は事実関係を否定していますが、この報道を受け、会社の株価は大幅に下落し、企業価値すら毀損される事態にまで発展しました。

このように、企業のレピュテーションリスクもあるため、接種を推奨するとしても、それが事実上の強制になっていないかは、慎重に検討する必要があります。

5. おわりに

上記はあくまでも会社内部の問題ですが、今後は、単なる社内の問題を超え、企業間の問題に発展する可能性も出てくるかと思います。

例えば、元請企業から下請企業に対し、「ワクチン接種を受けていない人は、現場での作業を認めない」などと指示が出された場合、下請企業としては、非常に対応に苦慮することになります。

ワクチン接種が更に普及するにつれて、当初想定していなかった新たな問題が出てくることが予想されます。社内・社外を問わず、ワクチン接種を巡る問題でお困りの際は、お気軽にご相談いただき、一緒に対応を検討できればと存じます。

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文責:弁護士 村岡つばさ

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。