民法改正と時効・記録の保存期間への影響

2020年(令和2年)4月1日に、債権法が改正された民法が施行されました。民法改正は労働者の賃金債権の消滅時効や労務管理の部分にも影響を及ぼしています。

民法改正前の賃金債権の消滅時効は、民法では1年とされていました。しかし、それでは、あまりにも労働者の保護が欠けるということで、改正前の労働基準法では賃金債権の消滅時効は2年とされていました。

改正後の民法では、賃金債権の1年という消滅時効の期間は削除されて、債権の消滅時効の期間は、原則として、権利を行使することができることを知った時から5年間行使しない、もしくは権利を行使できることを知らなくても、客観的に権利行使可能な時から10年間行使しないときは時効によって消滅するとしました。

この影響を受けて、労働基準法も下記のとおり改正されました。労働基準法附則第143条で、「当分の間」は5年ではなく、3年間が記録の保存・付加金の請求期間・賃金債権の時効期間となりましたが、その当分の間終了後は、5年の期間になるものと思われます。

この改正の影響で、今後さらに、企業様は、未払賃金の高額化というリスクを負うことになります。このような法務リスクは、事前に対策することで軽減することが可能です。

お困りの企業様はぜひ一度ご相談いただければと思います。

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改正前改正後
第109条
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない。
第109条
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならない。
第114条
裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第9項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から2年以内にしなければならない。
第114条
裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第9項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から5年以内にしなければならない。
第115条
この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
第115条
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

附則第143条 第109条の規定の適用については、当分の間、同条中「5年間」とあるのは、「3年間」とする。

② 第114条の規定の適用については、当分の間、同条ただし書中「5年」とあるのは、「3年」とする。

③ 第115条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から3年間」とする。

文責:弁護士 辻悠祐

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。