「最低限これだけはしておきたい」-同一労働同一賃金の対応

1. はじめに

新型コロナウイルスの対応で各企業が対応に追われる中、今年の4月1日より、中小企業においても「同一労働同一賃金」の対応が必要となります。

しかし、施行日まで3か月を切った現時点においても、体感としては、多くの中小企業において、同一労働同一賃金の問題が棚上げになっているという印象を受けています。


2. 問題が棚上げになってしまっている理由

まず、新型コロナウイルスの拡大により、「それどころではなくなった」という点が挙げられます。緊急事態宣言の発令に伴い休業対応はどうすべきか、給与・賞与の支払いを十分に行えるか、人員削減を検討すべきか等、新型コロナウイルスにより、多くの会社で大混乱が生じました。

これらはまさに経営に直結する問題であり、コロナ対応が最優先であることはやむを得ず、同一労働同一賃金の問題にまで手が回らなかったのが実情でしょう。

また、同一労働同一賃金は、ルール自体が非常に複雑で、「答え」があるわけではありません。しかも、賃金制度前提の見直しも必要になるため、「どこから手を付けて良いかわからない」というのが経営者の本音ではないでしょうか。

3. 同一労働同一賃金の基本的なルール

過去に、「同一労働同一賃金とは?」というタイトルでブログを記載しておりますので、詳しくはこちらをご覧ください。

非常に簡単に説明しますと、同一労働同一賃金は、正社員と契約社員・パート社員との間の待遇差(給与、福利厚生等)を是正するためのルールです。

「同じ仕事・責任の人には同じ待遇に、違いがある場合には違いに応じた待遇差にしましょう」という考え方であるため、「契約社員だから」「パートだから」という一事を以って、待遇に差をつけることはできません。

ここで問題となる待遇は、基本給、諸手当といった賃金の基本項目だけでなく、賞与・退職金といった特別の賃金や、特別休暇等の福利厚生についても問題となります。

4. 最低限なすべき対応

限られた時間の中で、最低限これだけは対応が必要、という点を記載してみました。

あくまでも「最低限」の対応であって、「これだけ対応すれば十分」という趣旨ではありませんので、ご留意ください。

(1) 正社員、契約社員・パート社員との相違の把握

少なくとも、①正社員と契約社員・パート社員との間において、仕事内容、責任の範囲(異動の有無等)につきどのような違いがあるか、どのような待遇差があるかを把握した上で、②待遇差が生じている理由の検証が必要です。

法改正により、労働者から求めがあった場合には、待遇差が生じている理由を説明しなければなりません。そのため、会社としては、待遇差を把握するだけでなく、その理由について検討を行い、労働者の質問に対する回答を予め準備する必要があります。

(2) 待遇差の解消

その上で、③説明がつかない待遇差については是正を検討します。

特に、多くの手当、福利厚生については、正社員と契約社員・パート社員との間で待遇差を説明することが困難であり、是正が求められることになります。

是正の方向性は、㋐契約社員・パート社員の待遇を上げる、㋑正社員の待遇を下げる、㋒全体的な見直しを行う、の3つが考えられます。

㋐を選択できるのが望ましいのは間違いありませんが、限られた人件費の中でどこまで対応ができるかは、十分に検討する必要があります。㋑㋒の場合には労働条件の引き下げの問題があるため、慎重な検討が必要です。

仮に正社員の待遇を一定程度引き下げる方向で検討する場合であっても、不利益の軽減措置(一定期間は支給していた手当相当額を「調整手当」として支給する等)を行うことも検討する必要があります。

他方、給与、賞与、退職金については、会社側において相当広範な「裁量」が認められる賃金項目であり、相当程度会社の裁量が尊重される傾向にあります(昨年出た最高裁判例についてはこちらの解説記事をご覧ください)。

そのため、「最低限」の対応ということを考えた場合、給与、賞与、退職金については棚上げということでもやむを得ないと考えます(私見)。ただし、この場合であっても、これらの賃金項目につき相違が生じている理由の把握は必要です。

5. おわりに

2月12日に、「滑り込み&見直し!同一労働同一賃金の実践的対応」というテーマで、無料のオンラインセミナー(ZOOM)を開催予定です。

同セミナーでは、より踏み込んだ実践的対応についてもお話する予定ですので、ご興味のある企業様は、お気軽にご参加ください(こちらからお申込みください)。

本ブログの内容に関わらず、企業様の法律問題でお困りの際は、下記よりお問い合わせください。

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文責:弁護士 村岡つばさ

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。