令和2年11月27日に、債務者の財産状況調査と債権回収の実務に関する無料オンラインセミナーを開催いたしました。このセミナーでは、相手方が保有する財産の調べ方や、改正された民事執行法を用いた具体的な債権回収方法についてお話ししました。
今回の企業法務ブログでは、セミナーで扱った改正民事執行法の概要について、ハイライトをお届けします。
1. 民事執行法改正のポイント
- 財産開示手続きが厳罰化したことにより、財産開示の実効性が高まりました。
- 不動産情報、預金の情報、勤務先の情報を知ることができるようになり、支払原資となる財産を見つけやすくなりました。
以下、より詳しく説明します。
2. 財産開示手続きとは
財産開示手続きとは、判決を有する債権者の申立てにより、裁判所が財産開示手続の実施決定をして債務者を呼び出し、非公開の期日において、自己の財産について陳述させることによって債務者の責任財産を特定可能なものとする制度です。すなわち、相手の財産のありかを、相手本人から教えてもらう手続きになります。
この手続きにより財産のありかが判明すれば、そこに対して強制執行を行い、債権回収を実現させます。
ただ、改正前にはこの手続きには問題があり、債務者が財産開示手続きに出頭せずとも、刑罰は科せられませんでした。
3. 財産開示手続きの厳罰化
今回の民事執行法改正により、財産開示に出頭しなかったり、嘘の情報を陳述した場合には、最大6カ月の懲役または最大50万円の罰金が科せられることになりました。
これは、刑罰であり、前科がつきますので、改正前よりも財産開示手続きの実効性が高まることが予想されています。
最近では、この不出頭・虚偽陳述に対する罪で、民事執行法改正後初めて書類送検がなされたことがニュースとなっていました。このような事例が増えることにより、財産開示手続きの実効性が高まることが期待されます。
4. 第三者からの情報取得手続き
財産開示は、債務者本人から財産のありかを教えてもらう制度でした。しかし、債務者本人から財産のありかを教えてもらうことは難しいのが実情です。
そこで、新しく設けられた制度が、債務者の財産のありかを知っている機関から、情報を取得する手続き(第三者からの情報取得手続き)です。具体的には、以下の手続きが新設されました。
①金融機関から債務者の預貯金債権の情報を取得する手続
銀行等から、債務者の預貯金債権の存否のほか、その取扱店舗、預貯金債権の種類及び額などの情報を得ることが出来ます。取得した情報を基に、債務者の預貯金から債権回収を図ります。
②市町村から債務者の給与債権(勤務先)に関する情報を取得する手続
市町村(特別区を含みます。)や日本年金機構等から、債務者の勤務先を特定するのに必要な情報を得ることが出来ます。取得した情報を基に、毎月の給与債権から債権回収を図ります。
※養育費等の債権又は人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権についての判決等を有する債権者に限られます。
③登記所から債務者の不動産に関する情報を取得する手続
登記所から、債務者が所有権の登記名義人である土地又は建物等を特定するのに必要な情報を得ることが出来ます。取得した情報を基に、不動産を競売にかけて、債権回収を図ります。
※システム構築の必要性から、まだ実施されていません。施工は2021年4月ころと言われています。
5. 改正民事執行法を用いて、債権回収の実現を
相手が任意に支払ってくれない場合の債権回収の問題は、対象となる財産(不動産、預貯金、勤め先等)をこちらで発見しないといけないということです。
判決が出た場合でも、裁判所が強制的に相手方の財産を見つけてくれることはありません。
相手方の財産を把握しているか、把握していない場合には、どのように財産調査をしていくか、という点が、債権回収の成功を左右します。
令和2年の民事執行法改正により、相手方の財産の把握がより簡単にできるようになりました。未回収の債権があり、回収にお困りの方がいましたら、一度改正民事執行法の利用を検討されると良いと思います。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。