【中小企業向け】新型コロナウイルスの影響下でも株主総会の開催義務はありますか?

1. はじめに

現在、新型コロナウイルスによる影響が企業活動に影響をもたらしています。多くの企業において、3月期決算業務、監査業務にも遅延が生じていると思われます。

密閉空間・密集場所・密接場面の「3密」の条件が揃うと感染拡大リスクが高いといわれていますが、株主総会の開催については、同じ部屋に多くの株主が集まるといわゆる「3密」の条件が揃ってしまう恐れがあります。

例年ですと、3月期決算の会社は、6月下旬に定時株主総会を開催する会社が多いと思いますが、顧問会社様から、「今年の株主総会は開催しないとだめなのか?」というご質問をいただきましたので、ウイルス感染が流行しているときの中小企業における株主総会の開催について、ご説明したいと思います。

2. 株主総会の柔軟な開催について

2020年年4月15日付で、金融庁のホームページ(HP)上に「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」という報道発表資料が公開されました。

経団連などが構成する協議会が、株主総会の開催について、企業・監査法人に対して柔軟かつ適切に対応することを求め、投資家に対して理解を求める内容になっています。

具体的には、次のようなことについて説明されています。

  1. 企業・監査法人においては、「株主総会運営に係るQ&A(経済産業省、法務省:令和2年4月2日)」の内容を踏まえて、新型コロナウイルス感染拡大防止のために適切な措置を検討すること
  2. 開催日程の延期が可能であること
  3. 株主総会を開催して続行の決議を求め(会社法317条)、後日継続会を開催して計算書類・監査報告等の説明をすることも考えられること
  4. 投資家においては、企業の持続的成長のために、株主総会・継続会の取扱い等についての理解が求められること

3. 株主総会の開催は必要です

そもそも、外出自粛等が要請されているなか、株主総会を開催しなければならないのでしょうか。

会社法上、「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。」と決まっています(会社法296条1項)。実際、計算書類の承認(会社法438条2項)や、役員の選任、(配当があれば)剰余金の配当などの決議をする必要があるため、株主総会は開く必要があるかと思います。

もっとも、法令上、株主総会を6月末までに開催しなければならないわけではないので、開催を7月以降にずらすことは可能です。

なお、定款上、「毎年6月に定時株主総会を招集する」という旨の規定があったとしても、天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで、その時期に開催することを要求する趣旨ではないと考えられており、新型コロナウイルスの感染が拡大している状況下では、定款上の開催時期に開催できなくても定款違反にはあたらないと考えられます。

4. 株主総会を開催しない場合のリスク

同族会社の中小企業においては、実際には株主総会は開催せず、株主総会議事録だけ作成している企業様もいるかと思います。

しかし、会社法上、全ての株式会社は、毎事業年度に1度は定時株主総会を開催しなければならないことになっています。また、株主総会を開催しないと、株主間で紛争が生じたとたんに、大きなリスクを抱えることになるので注意が必要です。

たとえば、株主総会決議不存在確認の訴えを起こされて、役員の選任決議が不存在となるおそれがあります。取締役の選任を否定されると、今まで取締役が行ってきた業務を覆されてしまうかもしれません。また、株主総会で決めるべき役員報酬の金額を否定され、取締役に役員報酬の返還請求がくるかもしれません。

5. 新型コロナウイルスの影響下での注意点

上記のとおり、株主総会は開催しなければならないのですが、新型コロナウイルスの感染が拡大している現在においては、中小企業が株主総会を開催する場合、次のような点に注意して対策することが考えられます。

開催前の対応

  • 株主全員の同意を得て、いわゆる書面決議、書面報告をする方法により、株主総会を省略できないかを検討する
  • 開催する場合には、できるだけ出席する株主を少人数とする(たとえば、委任状を提出した株主は出席しなくても議決権行使ができるため、招集通知時に委任状の返送を促すなど)
  • 株主の健康に配慮して、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主に来場を控えるよう呼びかける(とくに、高齢者、基礎疾患のある方、妊娠中の方については出席を慎重に判断するよう要請する)
  • 株主に対してマスク着用の協力依頼、会場入口における検温実施への協力依頼をする

開催当日の対応

  • 会場入口において、マスクの配布、消毒液による消毒、検温などを実施する
  • 発熱やせきなどの症状がある株主の入場を制限する
  • 席の間隔をできるだけ空けて着席するように誘導する
  • マイクを使わない、あるいは使うならスタンドマイクにする
  • スムーズに議事進行できるよう準備し、シナリオを簡略化して、開催時間を短縮する
  • 体調不良者が出た場合には、任意の退席を促し、退場してもらう

6. さいごに

今年の株主総会の開催については、「株主総会運営に係るQ&A」のような政府が公表している予防対策資料を確認するなど、株主総会において感染が拡大することのないよう、対策を徹底しましょう。

また、今後も、新型コロナウイルス流行時の株主総会の開催について、政府などから情報提供があるかもしれませんので、最新情報を常に気にしておく必要があると思います。

※なお、本記事の情報は2020年4月15日時点での記載のため、その後の状況によっては記載内容に変更の可能性があります。

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文責:弁護士 今村公治

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