ここ最近、よつば総合法律事務所のブログでは、働き方改革関連法案の取り扱いが増えています。前回も弁護士今村公治が時間外労働の上限規制を解説しました。
最近、顧問先企業様や知り合いの社会保険労務士の先生方から「時間外労働の規制に対応できないと結局どうなっちゃうの?」というご質問をいただくことがあります。もちろん法律違反となります。
特に悪質だと刑事事件になります。
では会社に発生するリスクは具体的にどうなるのでしょうか?
これまでの経験からリスクを具体的に予測します。大きなリスクは次の3つです。
- 人手不足問題が加速する?
- 管理職トラブルが増加する?
- 定額残業代の有効性に問題が生じる?
1.人手不足問題が加速する?
労働時間の上限規制が守れないということは、慢性的な長時間労働ということです。
長時間労働が続くと従業員のモチベーションや会社に対する評価が段々悪化します。
今回の上限規制は刑事罰がある厳しい規制です。会社は上限規制超えの長時間労働を記録することを躊躇するはずです。記録ができない以上、結果的にサービス残業となる可能性が高いです。法律違反であることは当然として、従業員との関係悪化や残業代請求のリスクまで高まります。
就労環境や待遇の悪化が進むと、業務の効率化に成功して残業が減っている会社へ人材が流出するおそれもあります。
人材の流出により社内の人手が不足すると、より仕事も忙しくなり、各人の負担も増します。ストレスも多くなりますので、人間関係のトラブルも増えます。無理な採用もしがちですので、会社と従業員のミスマッチも増えることでしょう。
このような状態だと、他のトラブルも雪だるま式にどんどん増えていくことになり、まさに負のスパイラルになります。
2.部下の残業を抑制できず管理職トラブルが増加する?
管理職の問題には、以下の記事でも触れました。
参考情報
上記記事にも書きましたが、管理職は元々長時間労働に追い込まれやすい状況にあります。
長時間労働の上限規制により、部下の残業を減らすよう管理職へと指示が出ると思われます。しかし、業務量と人数が変わらないのに残業を減らすのは至難の業です。
そうすると、部下に残業をさせないよう、管理職が部下の分も長時間労働をする可能性があります。管理職の過労死のリスクも気になります。
また、追い込まれた管理職が部下へのサービス残業を強制する可能性もあります。ひどいケースだと、労働時間の記録自体を改ざんするおそれすらあります。「改ざん」は労基署に発覚すると非常に厳しい対応が予想されます。
残業の削減は、管理職の努力だけでどうしようもない場合もあります。管理職だけに任せるのではなく、会社業績の維持向上のため、会社全体での対応が必要です。
3.定額残業代の有効性に問題が生じる?
定額残業代制度をご存知でしょうか?現在多くの企業で用いられています。簡単に言うと、基本給の一部や一定の手当を定額の残業代としてあらかじめ決めておくものです。
定額残業代の有効性はこれまでたくさんの裁判で争われています。過去の裁判所の判断では、実際の残業時間を考慮して定額残業代の有効性を否定するものもありました。
たとえば、極めて長時間の残業がある場合には定額残業代制度の有効性を否定する例がありました。
残業時間の上限規制が始めると、より定額残業代の有効性判断が厳しくなるのではないかといわれています。
もし定額残業代が無効となると、次のデメリットがあります。
- 残業の計算基礎の時給単価も上がってしまう
- 定額残業代が既払額として考慮されない
「うちの定額残業代は〇時間相当だけど法改正後も大丈夫だろうか?」とご心配な方は専門家に相談しましょう。
まとめ:時間外労働規制への対応
時間外労働規制に対応できないと、会社の経営にとって無視できない問題が多発するおそれがあります。
大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から時間外労働規制が適用されます。
中小企業の皆様は約1年程度余裕があります。その間に労働時間の見直しや、業務効率化の対策を講じましょう。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。