皆さま、こんにちは。今回は、こんな場合に代理店に損害賠償請求が認められてしまうのか!という事案がありましたのでご紹介させて頂きます。 皆様方も、「そういう失敗ありえるなあ…」と思われる内容かも知れませんので、是非、ご参考ください。

お客様とのやりとりから代理店に損害賠償請求が認められてしまった事例 ~東京地方裁判所平成6年3月11日判決~

(1)事案の概要

あるお客様が自動車販売店から高級外車を購入した際、その販売店が損害保険の代理店も兼ねていたため、まとめて自動車保険契約も結びました。

この保険の満期が近づいたため、代理店は、お客様に対し、「保険会社を他の会社に変更した上で、改めて自動車保険の契約をしませんか?」と勧めました。お客様は、その勧めに応じ、改めて1年分の自動車保険契約の申込書に署名捺印し、それを代理店に渡しました。その際、代理店からお客様に対し、契約申込書の控えは渡されませんでした。

その後、保険料の支払期限までの間、代理店は、お客様のもとへ保険料の集金に行ったり、保険料の請求書、振込依頼書などを送付することをしませんでした。

この頃、お客様は、代理店に対して車の点検なども依頼しており、そちらの費用は代理店からの請求の都度きちんと支払っていたため、自分には車関係で未払いはないと勘違いしてしまいました。結局、お客様が保険料未払いに気づくことはないまま、支払期限は過ぎてしまいました。

他方、代理店は、一向に保険料が支払われないため「お客様は他の代理店を通じて他社と保険契約をしてしまったのだろう…。」と判断し、特にお客様に連絡をすることもなく、当時の契約申込書等を破棄してしまいました。

その後、お客様が不幸にも自損事故を起こしたため、保険会社に対して、保険金の支払いを求めたところ、保険会社からは保険料の支払いがないことを理由に断られてしまいました。

困ったお客様は、「保険料が支払えなかったのは代理店がきちんと連絡をくれなかったせいだ!!損害を弁償しろ!!」と、代理店と保険会社を相手に裁判を起こしました。

(2)判決内容

結論として、裁判所は代理店の落ち度を認め、「本件において、代理店は、お客様に連絡し、保険料の額、支払方法、支払期限等をきちんと伝えるべきであった」としました。

対応の中で具体的に問題があったものとして、①保険料の支払期限まで保険料に関する連絡をしなかったこと、②保険料の請求書、振込依頼書及び振込口座通知書等の交付、送付をしなかったこと、③申込書を破棄する際、お客様に対し何ら通知をしなかったことなどが挙げられました。

裁判所が上記判断をするにあたり、重視したのは以下のような点です。

  1. 会社を変える前の自動車保険料は代理店が集金していたこと、
  2. 今まで保険以外の車関係手続きについても代理店からお客様宛に書類が送付されてきたこと、
  3. お客様には保険契約申込書の写しが渡されておらず、保険料の金額及び支払方法がわからなかったこと
    などです。

なお、裁判所は、お客様の主張する損害全額についての賠償を命じたわけではありません。お客様にも、保険料に関しての確認を怠った点で落ち度があるとして、請求額(車の流通価格から保険料を引いたものです。)から8割をカットした残り2割の賠償を命じるにとどまったのです。

(3)本件で代理店はどう対応するべきだったのか??

裁判所の判断は、裁判所が、提出された証拠をもとに行ったものに過ぎません。本当に真実に基づくとは限らないわけです。

代理店は、裁判では認められなかったものの、

  1. お客様には、申込日に保険料の振込み方法を伝えた、
  2. 後日保険料を支払う旨の承諾をもらった

などと主張していました。

これらの事実がきちんと証拠に表れていれば、裁判所の判断が異なった可能性も十分あるでしょう。 我々が日々扱う裁判の中では、いつも「言った言わない」の言い争いになります。そのような場面において、 裁判所は、当時のやりとりを記した書類やメールなどを重視することが多いです。

今回の裁判の代理店は、口頭で物事を伝えるだけではなく、お客様宛に手紙やメールを出すなどしておくべきでした。

また、仮にそこまで出来なかったとしても、せめてやりとりを何らかの形で記録しておくべきでした。代理店がこのような対応をしていれば、上記のような責任を負わずに済んだかもしれません。

(4)最後に

本件のようなトラブルは、事前の注意で簡単に予防出来るものです。

皆様も日頃から気を付けていらっしゃることだとは思いますが、

  1. 本人に不利益があることについては本人に告知すること、
  2. 日頃のやりとりのうち、重要なものについては、いつ、どこで、誰が、どのように伝えたのかが証拠として残るようにすること、を改めて徹底して頂ければと思います。  

(文責:弁護士 三井伸容)